社長の命令でもブタ箱に入るようなことはしない
私は40歳くらいのときに、地方銀行系列のリース会社で経理課長をしていました。
経理の仕事は慣れていたので、決算時期以外は8:00~17:00の定時で処理できました。しかし、中間管理職のご多聞にもれず、社内ネットワーク(LAN)の管理や、各種社内プロジェクトの遂行など、経理以外の業務に忙殺されていました。
平日は朝8:00から夜12:00くらいまで働き、土曜日や祭日も出勤し、日曜日だけ休むというパターンです。
なぜ日曜だけ休んでいたかというと、週1回は休まないと仕事のペースがガクンと落ちるからです。平日は16時間勤務し、土曜日と祝日も出勤が、私の肉体的かつ精神的な限界だったのです。
しかし、そんな状態でも、ここだけは絶対に譲らないと決めていた「働き方のポリシー」が2つありました。
- ブタ箱に入るような仕事は絶対にしない
- 身体か心が壊れそうになったら仕事を捨てる
ブタ箱レベルの脱税は絶対にしない
私の勤務先は地方銀行が所有するリース会社で、ファイナンスリースがメインです。業種としては金融になります。それゆえ、ワンロットの取引が1千万や2千万なんてザラ。大きい取引だと1件で5千万くらいありました。
経理担当をやっていて、社長が納税意識の高い人なら問題ありません。納税意識の高い社長は直ぐわかります。次のように指導されるからです。
「節税は徹底的にやりなさい。しかし脱税はするな。それは必要ない」とった感じです。
(節税は合法的に税金を減らすこと。脱税は法律に違反して税金を減らすこと)
ところが、私の勤務する会社の社長は、納税意識が低いタイプだったのです……。
あるとき、社長が私を呼んでこういいます。
社長:「●●君、これを経費で処理してくれ」と書類を渡されました。
手にとって眺めると、1000万円くらいの金額で完全に黒。とても経費では落とせない内容です。
私:「わかりました。書類はパーフェクトに作ります。私は印鑑を押しませんから、社長の印鑑をお願いします」
社長:「なんやお前、なんで印鑑押せないの。俺の命令でもダメなのか」
私:(わざとドスを効かした声で)「押せるわけないじゃないですか」
社長:「それなら、もういい」(怒)
この1000万を経費で処置すると、約500万円弱の脱税(法人税・地方税)になります。それを承上で命令してきます。
ぶっちゃけ、この1000万円が単発なら経費で処理して構いません。これくらい「国税局が調査に来たときのお土産」です。
しかし、この1000万円を引き受けたら、つぎは2000万円の指示をしてきます。そして、それを受けたら3000万円の脱税を命令してくるでしょうね。それがわかっているから拒否するのです。
また、国税局の調査でこの件が露見するのは数年後です。そのとき脱税を指摘されても、社長は定年退職(サラリーマン社長)しているか、他の会社に移動しているでしょう。
それだけでなく、国税調査官からこの件を質問されたら、このタイプは間違いなくこう言います。「俺は何も知らない。アイツが勝手にやった」とね。自ら指示したことを部下に押し付けて、自分はトンズラ。こんなこと世間には山ほどあります。
因みに、1憶円脱税したら実刑です。ブタ箱に収監されます。平均で1年4か月間臭い飯を食うことになります。
「冗談じゃない。そんな給料もらってない」 嫁もいるし、ましてや可愛い娘を「犯罪者の娘」にするなんて「絶対にできない」
何を言いたいかというと、自分の業務に付随する法律とその罰則を、普段から明確に認識しておく必要があるということです。ここまではセーフだけど、ここから先はアウトだから社長の命令でも拒否する。こうしたことを日頃から想定し、対処法を用意しておく必要があるのです。
1億円脱税したら実刑です。
平均1年4か月ブタ箱に行きます。
サラリーマン生活は危険がいっぱい
俺は経理マンじゃないし「そんなこと関係ない」と思っているでしょうね。では、直属の部長から次のように指示をされたらどうしますか?
部長:「●●君、衆議院議員の××先生の事務所にコレを届けてくれ。黙って置いてくればいいから」といって、ズシリと重い紙袋を渡されます。
さて、どうしますか? 指示通り黙って届けますか? 中身が札束なら危ない案件です。もし贈賄のお金だったら、ブタ箱行きの可能性だってあります。
もし私なら100%、間違いなくこうします。
私:「部長、紙袋の中身は何ですか? ちょっと見ていいですか?」
部長:「お前には関係ない。いいから黙って置いて来い!」(怒)
私:「すみません。中身がわからないものはお届けできません。この件は他の人に頼んでください」と言ってスルーする
幸いにも、私はこういう事例には遭遇しませんでしたが、これくらい世間では普通にあります。
まだ、他人事だと思っているでしょうね。では、真面目なサラリーマンがブタ箱に行った実例をいくつか紹介します。
事例1:ゼネコンで談合に関わった
あなたが大手建設会社(ゼネコン)の社員だったと仮定しましょう。入社して5年経ったとき、本社の営業部に異動になりました。栄転です!
ある日上司から「今度入札する工事の話し合いがある。お前が行ってこい」と命令されます。
営業部に配属されて「他社との話し合いには参加しない」とは言えません。しかし、その話し合いが「談合」だったら……。談合は建設業界にとって必要悪、いわば公然の秘密です。これをしないと利益がガクンと減ります。しかし、露見したら確実にブタ箱行きです。
ゼネコンの営業社員としてこれを拒否したら、折角入った上場企業を辞めるしかないでしょうね。さぁ、どうしますか?
事例2:証券会社で損失補填をした
つい最近、日興SMBC証券の幹部社員が「相場操縦」の疑いで逮捕されました。証券業界では過去にもたくさんの事件が発生しています。
あなたが一流大学から大手証券会社に入社したと仮定しましょう。その後も努力を続け、とうとう支店長まで出世しました。
意気揚々と赴任先の支店に向かい、前任の支店長から業務の引き継ぎを受けます。ところが、その支店では重要顧客に対する損失補填※が行われていたのです。もちろん、損失補填が露見すればブタ箱行きです。
※損失補填とは、証券会社が株式の売買において、顧客に損失が出た場合に、その損失を証券会社が負担すること。(証券取引法で禁止)
しかし、歴代の支店長が黙々と損失補填を続けています。新人支店長である”あなた”が簡単に切れる代物ではありません。秘密裏に会社に報告しても、上層部も打ち切りを許可しないでしょう。
幼い頃から何十年も努力して、やっと掴んだ大手証券会社支店長の地位です。エリートです。
でも、このまま損失補填を継続したら、最悪の場合すべてを失ってブタ箱行きです。さぁ、どうしますか?
事例3:上場企業で決算書を粉飾した
「上場企業の粉飾決算」です。これもよくある事例で、頻繁に発生しています。
上場企業といっても東証一部から、マザーズ、JASDAQなどいくつかの種類があります。東証一部市場は伝統的な大手企業が多く、東証JASDAQ市場はベンチャー企業向けの市場です。
あなたが、JASDAQ市場に上場しているベンチャー企業の財務担当だったと仮定しましょう。
ここ数年売上の低迷が続いたうえに、今季の業績が非常に悪い。悩みぬいた社長から、「決算書の粉飾」を依頼されます。
創業以来、やっとここまで成長してきた会社です。苦楽を共にした社長や社員にも愛着があります。ベンチャー企業とはいえ財務担当として、それなりの高給も得ています。苦境に陥っている社長の頼みを拒否したら、退職せざるを得ないでしょう。
しかし、上場企業の決算書を粉飾したら、有価証券取引法違反で確実にブタ箱行きです。さぁ、どうしますか?
サラリーマンには危険がいっぱい
あなたが経理マンなら「脱税」と「粉飾決算」が問題になります。脱税は「法人税法」「所得税法」「消費税法」などが関係し、粉飾決算は「有価証券取引法」「商法」などの規制を受けます。
金融なら「金融商品取引法」や「個人情報保護法」、建設業界なら「不正競争防止法」、訪問販売なら「特定商品取引法」といったように、各業界には守らねばならない法律があります。
もっと身近な例だと、温泉施設で水道メーターを迂回して配管するとか、運送会社で過積載を指示されるとか、産業廃棄物の処理を免許のない業者に依頼するなど、企業の法律違反を数え出したらきりがありません。
とにかく、所属する業界や部門によって、守らなければならない法律があり、サラリーマンとして働くときには、周囲に危険がたくさんあるということです。
あなたの仕事や業務に付随する法律知識をキチンと学び、上司からそれに違反する命令がきたら、その場で正しく対処できるように、常日頃から備えておく必要があるのです。
自分の仕事・業務に付随する法律の知識をキチンを学んでおこう!
あなたが経理マンなら「脱税」と「粉飾決算」に問題あり